2022年11月04日

2022年 第 43 週(2022/10/24~2022/10/30)

【今週の注目疾患】
■カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症
 11 月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間である。
本来ならば効くはずの抗菌薬・抗生物質が効かなくなることを「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial resistance)」という。
2019 年 4 月 29 日、国連は抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌が世界的に増加し、危機的状況にあるとして各国に対策を勧告している。
日本では毎月 11 月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」と設定している 1)。

 2022 年第 43 週までに県内の医療機関からカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症(以下、CRE 感染症)が 53 例報告された。
性別では女性 28 例(53%)、男性 25 例(47%)であった。
年代別では 80代が 19 例(36%)で最も多く、次いで 70 代が 15 例(28%)であり、60 歳以上の割合が 9 割をこえていた。
菌種別では Enterobacter cloacae complex 29 例(55%)と最も多く、次いで Klebsiella aerogenes 11 例(21%)であった。
新型コロナウイルス感染症の流行以降、県内では報告数の減少がみられる感染症もあるが、CRE 感染症の報告数は 2019 年以前と比較して大きな減少は見られていない。

 厚生労働省は、CRE 感染症患者の発生届出が医療機関からあった際に、当該患者の検体の提出を求め、地方衛生研究所等でカルバペネマーゼ遺伝子(耐性遺伝子)等の試験検査を実施することとしている(CRE 病原体サーベイランス)2)。
2017 年から 2022 年第 43 週までに県衛生研究所実施分として 243 検体が登録されている。
登録された 243 例のうち、菌種別の内訳で最も多く登録された菌種は K. aerogenes 90 例(37%)であり、次いで E. cloacae complex 80 例(33%)、K. pneumoniae 25 例(10%)であった。
カルバペネマーゼ遺伝子が検出されたのは 67 例(28%)であり、IMP 型 55例(23%)、NDM 型 12 例(5%)であった(表)。
最も多くカルバペネマーゼ遺伝子が検出された菌種は、IMP 型では E. cloacae complex 38 例(38/55,69%)、NDM 型ではE. coli 8 例(8/12,67%)であった。

 CRE 感染症は、カルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム剤に対して耐性を示す腸内細菌科細菌による感染症の総称である。
CRE は主に感染防御機能の低下した患者や外科手術後の患者、抗菌薬を長期にわたって使用している患者などに感染症を起こす。
尿路感染症、肺炎などの呼吸器感染症、手術部位や皮膚・軟部組織の感染症、カテーテルなど医療器具関連血流感染症、敗血症、髄膜炎、その他多様な感染症を起こし、しばしば院内感染の原因となる。
CRE のなかでもカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼを産生する腸内細菌科細菌(CPE)はβ-ラクタム剤以外の抗菌薬に耐性を示す場合も多く、CPE による菌血症は、カルバペネマーゼ非産生 CREによるものと比較して治療予後が悪いと報告されている。
また、CPE は多くの場合、カルバペネマーゼ遺伝子をプラスミド等の可動性遺伝因子上に保有するため、薬剤耐性を菌種をこえて伝播させることが知られている。
このため、CRE のうち CPE は院内感染対策上も治療上も区別が必要と考えられており、カルバペネマーゼ遺伝子検査の実施が必要とされている。
カルバペネマーゼにはいくつかの種類があり、国内で多くみられる IMP 型、海外で広がっている NDM 型、KPC型、OXA-48 型が知られている 3)。

 各機関における感染拡大防止には、全ての患者に対して感染予防策のために行う標準予防策(手洗い、手袋・マスクの着用等が含まれる)と必要に応じた感染経路別予防策(接触予防策)を実施する。
手指衛生については、手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備するとともに、手洗いは患者や患者周辺の物品に触れる前後で行う。
接触予防策には個室管理が望ましく、標準予防策に加え、室内に入る際には手袋及びビニールエプロン(ガウン)を着用する 4,5)。
 また、薬剤耐性(AMR)による感染症は、医療関連感染症として医療機関において大きな問題となっていることに加え、最近では、医療機関外での市中感染型が増加している 6)。
それぞれの医療機関が実施する院内感染対策だけでなく、地域における薬剤耐性菌の広がりを把握し、必要に応じて拡大防止対策を講じるために、地域連携が重視される 7)。

■参考
1)AMR 臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業):薬剤耐性(AMR)対策推進月間 2022
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2)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について
(厚生労働省通知平成 29 年 3 月 28 日健感発 0328 第 4 号)
3)国立感染症研究所疫学センター:カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症
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4)医療機関における院内感染対策について
(厚生労働省通知平成 26 年 12 月 19 日医政地発 1219 第 1 号)
5)AMR 臨床リファレンスセンター:標準予防策と感染経路別予防策
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6) 厚生労働省:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2016-2020
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7)感染症教育コンソーシアム:中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年11月2日更新)