2017年05月29日

今週の注目疾患   平成29年・20週(5月15日~5月21日)

~カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症~
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症は、日本では 2014 年 9 月 19 日より感染症法 に基づく 5 類全数把握疾患に分類されている。CRE を含む薬剤耐性菌(Antimicrobial resisitance:AMR)の問題は、近年国際的課題として対策が求められており、2016 年 4 月には本 邦における薬剤耐性対策アクションプランも策定された。 CRE 感染症の発生動向調査が開始され 2 年半が過ぎ、その届出状況の把握のため、サーベイラ ンス開始以降、2017 年第 20 週現在までに県内医療機関から報告された CRE 報告例についてまとめる。
上記期間における報告数は計 178 例であった。診断時の年齢は中央値 73 歳(範囲 13-102 歳)、 性別は 178 例のうち 131 例( 74%)が男性であったが、発症時年齢の性別による違い(年齢分布) は認められなかった。渡航歴の有無に関する記載のあった症例の中で、90 日以内の海外渡航歴を有するとした症例はなかった。 感染症の病型では、尿路感染症が 24%、次いで肺炎 22%、菌血症・敗血症 21%であった。感染原因としては以前からの保菌(37%)、医療器具関連感染(24%)、手術部位感染(19%)、院内 感染(5%)の順に多くみられた。分離菌については記載欄に記載が無い、属名までの記載といっ た 10 例を除いた 168 例では、 Enterobacter aerogenes (43%)、 Enterobacter cloacae (38%)、 Escherichia coli (6%)、 Klebsiella pneumoniae (5%)の順に多かった。 サーベイランスが開始されてから 3 年に満たず、発生数の推移について検討することは困難であるが、2017 年は第 20 週までに 28 例が報告されており、通年で CRE 感染症のサーベイランス が稼働していた 2015 年同時期(第 1~20 週)の 11 例、2016 年同時期(第 1~20 週)の 19 例と 比較して多い。増加の要因としてはサーベイランス開始による検査法の導入・普及や意識の向上 が報告数の増加に関係していることも考えらえる。 CRE 感染症においては、原因菌である腸内細菌科細菌がどのようなカルバペネム耐性機序を示 しているかが重要である。カルバペネマーゼ産生菌(CPE、carbapenemase-producing Enterobacteriaceae)の場合、カルバペネマーゼは一般的にカルバペネム系を含むほとんどのβラクタム剤を加水分解するため、CPE はβ-ラクタム剤に汎耐性となることが多い。また、カルバ ペネマーゼ遺伝子は他の系統の薬剤耐性遺伝子とともにプラスミド上に存在することが多く、こ のプラスミドが菌種間を水平伝達しうるため、拡散伝播経路も複雑になりやすい。CRE と判定さ れた株が分離された場合、それが CPE なのかその他の機序によるカルバペネム耐性なのかを確 認することが望ましく、また同時に院内感染なのか市中感染なのかを評価すること、周囲への拡散させるリスクについて評価することが求められる。各症例のリスク評価に基づく効果的な対応 方法の確立が、CRE感染症のサーベイランスが開始されて2年半が経ち、見えてきた課題である。

【千葉県感染症情報センターより参照】
(平成29年5月24日更新)