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2期のDTが未接種であった10代の破傷風発症事例

(IASR Vol. 39 p27: 2018年2月号)

破傷風は1968年に予防接種法による沈降精製百日せきジフテリア・破傷風混合ワクチン(DPT)の定期予防接種が開始されてから報告患者数は激減し, 本邦における近年の報告患者数は年間120人程度である。そして, その報告患者の多くはDPT定期予防接種の対象となる前の48歳以上(1969年4月以前生まれ)である。

今回, 2期の沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド(DT)が未接種であった高校生において, 破傷風発症事例があったので, 大阪市における破傷風発生状況および定期の破傷風トキソイド接種状況と併せて報告する。

症例:17歳 女性

主訴:倦怠感, 開口障害

ワクチン歴:第1期は0~1歳にかけて3回DPT初回接種, 2歳で標準スケジュールどおり追加接種がなされていたが, 第2期のDTは未接種であった。

現病歴:屋外で運動後, 帰宅後に倦怠感が強くなり意識レベルが低下したため, 救急搬送となった。

入院時所見:意識レベルJCSI-1, 体温・心拍数・呼吸数・血圧異常なし。頭頸部, 心肺腹部に特記すべき身体理学所見認めなかったが, 左手掌切創痕(長さ1cm程度・痂皮形成)を認めた。その他明らかな外傷痕は認めなかった。

血液検査では, WBC 8,300/μL, CRP 0.12 mg/dL, AST 18 IU/dL, ALT 13 IU/L, LDH 193 IU/L, CPK 116 IU/Lと炎症反応や逸脱酵素の上昇なく, その他の検査値にも明らかな異常は認めなかった。

経過:初診時, 朦朧とした状態で, 口が強張っており, 発語が不明瞭であった。痙笑や歯を食いしばるような所見は認めなかった。また左手掌の切創痕は, 1週間前にクラブ活動中錆びたグラウンドレーキ(通称:トンボ)で受傷したとのことであった。予防接種歴と外傷のエピソードより発症初期の破傷風と診断された。抗破傷風ヒト免疫グロブリン(合計3,000国際単位), および, ペニシリンG400万単位4回/日により治療を開始した。また, 沈降破傷風トキソイドの接種を行った。入院翌日には意識レベルは回復し, 発語が明瞭になり, ペニシリンを2日間追加投与し退院となった。主治医が第14病日に電話で病状を確認したところ, 回復し部活動を再開しているとのことであった。

考察:本症例では, 2期のDTが未接種であった高校生がクラブ活動中に錆びたグラウンドレーキで受傷したことにより破傷風に感染したと考えられた。2006年以降, 大阪市では破傷風事例が13件報告されたが, そのうちDPTワクチン接種対象世代である10代と20代の報告事例が本症例も含め, 4例認められた。本症例以外の3例におけるワクチン歴は, 接種回数が不明もしくはワクチン歴が不明で, DPTワクチンの定期予防接種がスケジュール通りに接種されていない可能性があり, スケジュール通り予防接種を受けていたら発症を防げたと考えられた。

また, 2016年度の大阪市における乳幼児期に接種する1期の沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(DPT-IPV)の接種率は87.5~98.9%であるのに対し, 11歳以上13歳未満で接種する2期のDTワクチンの接種率は51.8%と低い状況にある()。大阪市における10代および20代の破傷風患者を減少させるためには, 接種率が低い2期のDTワクチンの接種率を上昇させるとともに1期のDPT-IPVのより一層の接種率の向上が求められる。

 

大阪市保健所
 藤森良子 藤原遥香 伯井紀隆 木村禎彦 津田侑子 岡田めぐみ
 半羽宏之 寺澤昭二 吉田英樹
大阪府済生会野江病院
 鈴木聡史

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